難病の整形外科医、介助犬と一緒に診察

患者が犬とふれ合い前向きな気持ちになれる効果も期待

読売新聞より転載

大阪府泉佐野市の社会医療法人・栄公会の理事長で、難病を抱える医師の中村薫さん(68)が、パートナーの介助犬、ラブラドルレトリバーのジュリエット(雌、4歳)を伴って患者らの診察やリハビリを行う「介在療法」を実践している。犬とふれ合うことで、患者らのストレスや不安などが和らぎ、前向きな気持ちになれるなどの効果が期待できるという。(北口節子)

整形外科医の中村さんは、13年前に国指定の難病「HTLV―1関連脊髄症(HAM)」と診断された。ウイルスによって脊髄に炎症が起き、神経を傷つけて両脚のまひなどが進行する病気で、患者は全国に約3000人と推定されている。

 約5年前から車椅子生活になり、2年ほど前、障害がある人たちを支援する「介助犬」「盲導犬」「聴導犬」3種の補助犬を育成する公益財団法人・日本補助犬協会(横浜市)を訪れ、ジュリエットと出会った。合同訓練や認定試験などを経て、昨年3月から一緒に暮らし始めたという。

 ふだん、ジュリエットは中村さんの日常生活を支援する。ドアを開け閉めしたり、冷蔵庫の中からペットボトルを取ってきたり。中村さんは「歩けない僕に、この子はいろんなことをしてくれるけれど、それよりも、何となく感じる負い目や孤独な心を補ってくれている。いつも一緒にいて、心が休まっている」と語る。

 栄公会が運営する高齢者福祉施設や病院に出向く時も、一緒に連れていく。ジュリエットは、施設を利用するお年寄りとふれあい、診察やリハビリを受ける患者にも寄り添う。失語症の人が話しかけようとしたり、障害のある人が動かしにくい手でなでようとしたりするなど、患者らの前向きな気持ちを引き出す役割を果たしていると考えられる場面が、いくつもあるという。

 中村さんは「心を落ち着かせてくれるのが一番の効果。リハビリでジュリエットがそばにいると、患者のモチベーションが向上して治療がスムーズに進む場合もある」と話す。


日本補助犬協会によると、補助犬を伴う療法は、欧米諸国の医療機関で導入されている。患者らのストレスや不安、悲しみなどを和らげ、気持ちが落ち着いたり、快活になったりする効果が期待できる。国内ではまだ実践例は少なく、補助犬ユーザーの医師自身が取り組むケースは珍しい。

 栄公会は4月、この「補助犬介在療法」について協会と連携協定を締結。訓練士1人を派遣してもらい、実践に取り組んでいる。5月中旬には、補助犬の働きや社会参加について考えてもらおうと、病院や施設のスタッフら約100人を集めたセミナーも開いた。

 日本補助犬協会の朴善子代表理事は「医師という視点で、補助犬が自身のリハビリや心の癒やしにもたらしてくれる効果を広げていくべきだという中村さんの思いを、ともに進めていきたい」と期待を寄せる。

 中村さんは、補助犬についての啓発活動だけでなく、専門的訓練を受けて病院で患者の治療や療養に寄り添う犬「ファシリティードッグ」の導入も必要だと考えている。「今後、ジュリエットと一緒に、『チーム・ジュリエット』として、関西の『こども病院』にファシリティードッグを派遣する活動にも取り組みたい」と語る。

NPO法人 補助犬とくしま

特定非営利活動法人(NPO法人)補助犬とくしまは、徳島県の身体障害者補助犬(盲導犬、介助犬、聴導犬)の育成と普及啓発を促進する事業を行い、障がい者福祉の向上のための活動を行なっています。

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