猫、補助犬も法律的に「モノ」扱いは妥当?
弁護士JPニュース
1月2日に羽田空港で起きた日本航空機と海上保安庁の航空機の衝突事故では、日本航空機の側の乗客は全員脱出でき死亡者もいなかったが、機内に残された2匹のペットは救出されず死亡した。
「機内へのペット持ち込み同伴」を求める声が上がったが…
事故の後、女優の石田ゆり子さんやフリーアナウンサーの笠井信輔さん、乃木坂46の元メンバー堀未央奈さんなどが、自身のSNSやブログで、ペットを機内の客室に持ち込み同伴できるようにすることを検討してほしいと航空会社に提言して多くの反響を呼んだ。しかし、批判的な意見も多数寄せられ、石田さんはインスタグラムのコメント欄を閉鎖する事態となった。
また、事故を受けて、スターフライヤー社が提供するペット同乗サービス「FLY WITH PET!」が注目されたが、同社のWebサイトには「脱出の際にはペットは機内に置いて行かなくてはなりません」と記載されている。
法律ではペットはあくまで「モノ」として扱われるのか、緊急の際にはペットは脱出できずに犠牲になるのは仕方がないことなのか。自身で保護猫活動もしており、動物と法律の問題に詳しい小泉将司弁護士に聞いた。
ペットが死亡した場合の、慰謝料の金額は?
――法律上、ペットを含む動物は「モノ」として扱われています。貨物室に預けたペットが死亡した場合にも、損害賠償などに関しては、他の貨物を紛失した場合と同じようになるのでしょうか。
小泉弁護士:たしかに、動物は民法・刑法上は「モノ」扱いです。しかし、交通事故などでペットが死んでしまった場合の飼主に対する精神的損害の賠償(慰謝料)は、実はかなり前から(昭和30年代から)認められています。
とくに最近では、裁判例でも「家族の一員」「飼い主にとってかけがえのない存在」といった言葉が用いられ、賠償額も少しずつ高額になってきてはいます。それでも、高くて数十万円ですが。
――報道によると、日本航空は乗客に対して「見舞金」と「預け荷物の弁済金」をそれぞれ10万円ずつ一律に支払うと伝えたそうです。このような事例の場合、死亡したペットの飼い主は、見舞金や弁済金に加えて、慰謝料などを更に請求することはできるでしょうか?
小泉弁護士:ペットを航空機に預けたということは、ペットが「荷物」として扱われることを飼い主が了承した、ということになります。そのため、「見舞金」と「預け荷物の弁済金」に加えて精神的苦痛を根拠とする慰謝料を請求するのは難しいでしょう。
――ほとんどの航空会社では、客室内へのペットの同伴を禁止しています。ペット同伴可能な「FLY WITH PET!」サービスでも、「緊急脱出が必要になった際にはペットは機内に残す」と規定されています。緊急脱出の際の荷物やペットの扱いについて、法律ではどのように定められているのでしょうか。
小泉弁護士:日本においては、国土交通省航空局の示す指針に依拠しています。荷物やペットの扱いというよりも、端的に「何も持たない」ことが原則です。
1月の日航機事故でも、客室乗務員の迅速適切な指示により、指針に沿った適切な対応を各自がとったことと、90秒以内に全員が脱出できるようにするという旅客機の設備の国際的な基準があいまって、「奇跡的」ともいわれた人間の死亡者ゼロが可能になったわけです。
盲導犬や介助犬は機内への同伴が認められているが…
――JALは盲導犬や介助犬などの「身体障がい者補助犬」については機内への同行を認めています。緊急脱出の際、補助犬はどうなるのでしょうか。
小泉弁護士:盲導犬や介助犬を航空機内に同伴できることについては、身体障害者補助犬法の第8条で定められています。ただし、緊急脱出時における扱いについては、各航空会社とも明示していません。
補助犬は障害者にとって生きた自助具ですから、一緒に避難することができる限り望ましいでしょう。しかし、同伴しての脱出が保証されている、とまではいえません。
――立憲民主党の米山隆一衆院議員は自身のX(旧ツイッター)で「飛行機事故の様に1秒を争う緊急の線引きでは「人間と人間でない物」で分けるのは当然で、ペットは線の外に置かざるを得ません。」と投稿していました。緊急時に動物を見捨てることは当然なのでしょうか。そのあたりのお考えやお気持ちを聞かせてください。
小泉弁護士:私は猫を飼っていて、猫は家族だと思っていますが、猫と一緒に旅行したいとは思いません。また、旅行くらいのことで航空機に猫を乗せようとは思いません。仮に客室に同伴できたとしても、猫にとっては大きな精神的・身体的ストレスがかかる、苦行でしかないためです。
航空機でしか行けないところに移住するなどの場合でなければ、猫を預かってくれる人や施設を手配すると思います。
航空機で移動させることがその動物に与える影響を考えたら、機内へのペットの同伴を可能にすることには慎重になるべきでしょう。「家族だから」というような情緒的な視点だけでは、広く理解を得ることは難しいと考えます。
ともあれ、動物について、こういった声を上げる人が増えてきたこと自体は、動物のことを趣味嗜好の対象や道具のような存在としてみなすのではなく、「人と一緒に社会に生きる存在」として尊重する動物愛護(動物福祉)の精神が広まりつつあることの表れだと思います。
この機会に、議論が深まることを期待しています。
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