聴導犬育成、活動30年に幕「ささやかでも障がい者に寄り添えた」

朝日新聞アピタルより転載

聴覚障がい者の暮らしをサポートする「聴導犬」の育成や普及に取り組んできた神奈川県鎌倉市の松田治子さん(74)が、約30年にわたった活動に終止符を打った。「ささやかでも障がい者に寄り添う活動ができたと思う」と松田さん。訓練を手がけた5頭が障がい者を支えてきた。

訓練の様子。目覚まし時計の音に反応し、飼い主をおこす聴導犬=2022年6月21日、神奈川県鎌倉市津、浜田奈美撮影


聴導犬は、聴覚障がい者の「耳」がわり、あるいは家族の代わりとなって飼い主をサポートする。ドアのチャイムやノックの音、目覚まし時計や電話の呼び出し音、非常ベルの音などを感知すると、ほえるのではなく、飼い主のもとに駆け寄って知らせる。

 国内では現在、約60頭の聴導犬がいる。専門施設で訓練を数カ月から半年ほど積み、厚生労働省が許可した団体に認定を受けることで、聴導犬として活動できる。

 松田さんが聴導犬の育成に取り組むようになったきっかけは30年ほど前、聴覚障がい者の友人の言葉だった。「あなたは我が子の声を聞きたいと思ったこと、ない?」。松田さんが雑談の中で、自分の子どもを叱ったことに触れると、そう言われた。


あなたは我が子の声が聞こえるでしょう。子どもの本当の声を、聞いているのか――。言葉の真意をそう解釈した。そして、聴覚障がい者の苦しみに理解も配慮もなく愚痴をこぼした自分が恥ずかしくなった。「もっと聴覚障がい者の視線で考えなくては」

 この体験をイギリス在住の友達に伝えると、「私たちの国には、障がい者に寄り添うヒアリングドッグ(聴導犬)がいる」と助言をくれた。当時、聴導犬の存在は知らなかった。松田さんは「自分がすべての聴覚障がい者に寄り添えなくても、聴導犬を育てることなら出来る」と考えた。

 まず活動に必要な募金を集め、1996年からは保護犬を対象に育成を始めた。2004年にはNPO法人「聴導犬育成の会」を設立した。

 松田さんはこれまで、十数頭の保護犬を聴導犬として訓練し、適性が確認できた5頭を障がい者のもとに送り出した。保護犬の中には、東日本大震災の被災地で迷子になっていた犬もいた。犬の性格とユーザーの需要がかみ合わずマッチングが難しい場合は、家庭犬として譲渡してきた。

松田治子さん。事務所では聴導犬の役目を終えた犬たちの世話も続けてきた=2022年6月21日、神奈川県鎌倉市津、浜田奈美撮影


松田さんはスタッフと共に、聴導犬を必要とする障がい者に届けてきたが、犬たちの訓練や世話を続けることには体力も必要だ。育成活動を終えることに葛藤もあったが、7月末に決断した。今後は普及活動に軸足を移すという。

 「聴導犬は障がい者の間でも知られていない存在。難しいこともありましたが、お届けした犬たちは立派に仕事をしてきた。聴導犬育成に関われてよかった」(浜田奈美)

NPO法人 補助犬とくしま

特定非営利活動法人(NPO法人)補助犬とくしまは、徳島県の身体障害者補助犬(盲導犬、介助犬、聴導犬)の育成と普及啓発を促進する事業を行い、障がい者福祉の向上のための活動を行なっています。

0コメント

  • 1000 / 1000