介助犬「くーすけ」 助け、助けられ築く信頼関係 愛媛2頭目

4月30日 毎日新聞より転載

愛媛県で初めて介助犬を迎え入れた松山市の妻鳥(めんどり)和恵さん(50)の元に昨夏、2代目となるラブラドールレトリバーの「くーすけ」(雄、3歳)がやってきた。3月には県内2頭目の介助犬認定を受け、新たなパートナーとして信頼関係を築きつつある。この1年間には、初代「クリーム」の死や妻鳥さん自身の新たな難病発症など、思いがけない困難が待ち受けていた。

手足が不自由な人に付き添う介助犬は、物を拾ったりドアを開けたりといった動作ができるよう特別な訓練を受けている。妻鳥さんは2012年に運動障害を伴う神経疾患「複合性局所疼痛(とうつう)症候群」(CRPS)を発症して歩けなくなり、アジアワーキングドッグサポート協会(横浜市)で訓練されたゴールデンレトリバーの雌、クリームを14年に譲り受けた。クリームは介助犬の引退の目安とされる10歳を迎えた昨年、妻鳥さんの元を離れた。

 「人に頼むのは気が引けるささいなことでも、犬になら頼める」。介助犬が生活の一部となっていた妻鳥さんは、2代目を迎えることを決めていた。21年8月、静岡の知人宅にクリームを託すのと入れ替わりにくーすけを迎え、一緒に生活をしながら相性を見る訓練が始まった。くーすけは、大きな音を怖がったことなどから盲導犬から介助犬に「キャリアチェンジ」した過去を持つ。人なつこい性格のため、妻鳥さんとの生活にはすぐに慣れ、当時の職場に一緒に出勤して数日もたつと「『ご主人と介助犬』の関係になれた」。

妻鳥さん自身が手探りだった7年前と異なり、くーすけには「訓練士になったつもりで」動作を覚えさせることができた。一方で、指示通りの動きができず「『クリームだったら』と思ってはいけない」と自分に言い聞かせることもあった。大きな変化は、妻鳥さんのリハビリが進み、立ち上がったり物を拾ったりできるようになったこと。クリームに求めるのは物を拾う動作が主だったが、くーすけには電動車椅子を引っ張ったり横について歩いたりといった「次の段階」の動作を求めるようになった。

 ◇新たな難病発症と初代の急死

 妻鳥さんが思いもよらない難病に見舞われたのは、くーすけとの生活が4カ月を迎えた昨年末だった。少し前から感じていた体のかゆみが悪化し、全身に水疱(すいほう)ができる自己免疫疾患で指定難病の「類天疱瘡(るいてんぽうそう)」と診断された。CRPSとは関係なく発症し、高齢者に多い疾患のため「なんでこんな病気が重なるんだろう」と落ち込んだ。入院治療が必要になり、くーすけとは離ればなれに。さらに、約2カ月の入院中だった1月末、余生を送っていたクリームが心臓の病気で急死した。家族同然の存在にもかかわらず、駆けつけることもかなわなかった。

 退院後、再会したくーすけは、すぐに妻鳥さんに飛びついてきた。自宅に帰ると迷わず自分の定位置に。4カ月を過ごした妻鳥さんの自宅は、くーすけにとっても帰る「家」となっていた。

これまで多くのメディアの取材を受け、介助犬との生活を伝えてきた。それでも、県内での介助犬認定は妻鳥さんのパートナーとなった2頭のみで、「介助犬の良さを障害者向けに発信できていなかった」と反省する。妻鳥さんにとって、介助犬は「生活レベルを上げてくれ、心の張り合いになる」存在。助けてもらい、面倒を見るという双方向の関係には、人や機械による介助とは違う心地よさがある。

 妻鳥さんの双子の娘のうち、あおいさんはこの春に高校進学で家を出たため、今は妻鳥さんと娘のあかねさん、くーすけの生活。成長するくーすけと過ごしながら自身もリハビリに励み、くーすけが引退するころには介助犬なしで生活できるまでに回復することが今の目標だ。【斉藤朋恵】

 ◇介助犬とは

 手足に障害がある人を手助けするため、特別な訓練を積んだ犬。落とした物を拾ったり、ドアを開けたりできる。訓練士によるトレーニングと、使用者になる障害者との40日以上の合同訓練の後、指定の法人で認定試験に合格する必要がある。四国での実働数(2021年10月)は「くーすけ」を含め3頭、全国では57頭で、同じ補助犬の盲導犬の実働数(四国27頭、全国861頭)と比べると少ない。身体障害者補助犬法(03年全面施行)では交通機関や不特定多数の人が利用する施設などで盲導犬、介助犬、聴導犬の受け入れを義務づけている。。

NPO法人 補助犬とくしま

特定非営利活動法人(NPO法人)補助犬とくしまは、徳島県の身体障害者補助犬(盲導犬、介助犬、聴導犬)の育成と普及啓発を促進する事業を行い、障がい者福祉の向上のための活動を行なっています。

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