現代ビジネスより転載
SLIMチームが月面に設定した「ドッグラン」のイメージ。 ISAS/JAXA発表の月面写真をもとに構成した(出典:トイプードルはシャンソン歌手・瀬間千恵さんの愛犬、柴犬は山根の愛犬、他の犬写真はフリー写真とWikipedia)
2024年1月20日。月面への超精密軟着陸を果たした小型月着陸実証機「SLIM(スリム)=Smart Lander for Investigating Moon」。
トラブルに見舞われたものの探査機本体は月面(SIOLI「栞」クレーター近傍)の撮影に成功、JAXA宇宙科学研究所(ISAS、以下「宇宙研」と略)のSLIMチームは月面に「ドッグラン」を設定、そして、およそ9日後の29日午前8時4分、JAXAはX(旧twitter)で、SLIMの電力が回復、「トイプードル」観測に成功、その画像を受信したと発表した。
月面に「ドッグラン」?
「馬鹿も休み休み言え」と口にしたくなるだろうが、この6種の犬たちは、ソーラー発電が途絶え休眠状態になったSLIMが目覚めたあとの、大事な引導役なのだ。盲導犬、聴導犬ならぬ「月導犬」だ。トラブルからおよそ9日目にSLIMは目覚め、「月導犬」の活躍が始まったのだ。
月面の「岩に犬種名」そのココロとは?
月面の岩につけた犬の名(出典:ISAS/JAX)
1月25日、SLIMプロジェクトマネージャ、坂井真一郎さんらは記者会見で20日のスリムの月面着陸の詳細を明かし、SLIMが撮影した写真とSLIMから分離した小型ロボットが撮影した写真を公開した。
その会見のパワポでは表示されなかったが、SLIM本体が撮影した月面写真には6つの岩が写っていて、それぞれに「犬」の名称をつけていたのだ。
セントバーナード、甲斐犬、秋田犬、ブルドック、柴犬、トイプードル。
どうして岩に犬種名をつけたのかの説明はなかったが、きっと、こうだ。
SLIMの回復後、それぞれの岩をマルチバンド分光カメラで撮影する。月の成り立ちなどを、このポイントならではの岩石を詳細に調べるのがSLIMミッションの大きな柱だからだ。
月の表面は3793万平方km、日本の面積(約37万8000平方km)の100倍だ。SLIMチームは、その月面を日本の月探査機「かぐや」(2007年)やアメリカの月探査機「LRO」などが観測した膨大な詳細画像を精密に調べ、このごくごく狭いポイントを選んでいるのだ。
そこの岩石成分を検出した詳細データを地球に送信する。
その作業で混乱がないために「犬種」の設定をしたに違いない。「岩石A」「岩石B」と呼ぶより、「トイプードル!」と言った方がチームのだれもが直感でどの岩かわかるからだ。
このやり方、やわらか発想の宇宙研ならではだなぁと、勝手に感心した。
2005年9月、小惑星探査機「はやぶさ」は小惑星「イトカワ」に20kmまで接近し、その写真を送ってきた。その直後、私は宇宙研の深宇宙管制室前の廊下の壁にそのプリントが張り出されたのを見たが、そのタイトルは「いとかわラッコ」。
小惑星「イトカワ」の形がラッコのようだというので、「イトカワ」の写真に眼、鼻、ヒゲ、胸に抱えた貝を書き加えてあった。このいたずらをやったのは、チームの一人、平田成さん(当時、会津大学准教授)だ。
だがそれは単なる悪戯ではなく、今後、「イトカワ」の観測を行う際に、「中央部の平坦凹みの緯度◯、軽度◯」などややこしいことを言わず「ラッコの首の下」と直感でわかりやすく伝えるための「設定」だったのだ。
SLIMが撮影した月面岩石に犬の名をつけたのは、18年前の伝統技なのだ。
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